―――どうしてお父様は私のことを理解してくださらないの!?
―――どこでそんな反抗的な態度を身につけた!!お前は黙ってこの永村家のために身を尽くせばいいのだ!女が余計な考えを持つものではない!!
―――雪さんは私が気に入りませんか・・・
―――そういうことではないのよサン・・・ねぇ・・・貴方には・・・・
「・・・・・・・・・・っ」
背中を衝撃が走ったように、ピロリは飛び起きた。 両手が汗ばみ冷や汗が恐ろしいほどに体を伝っているのが自身で分かると、1つ息を吸って腕でぐいと汗を拭う。
「・・・・・・・・・・・あれは・・・私・・・・?」
ぼそりとつぶやいた声が静まる部屋に不気味に響いてピロリは頭を横に振る。
長い髪に、テレビで見たような貴族の着る洋服。テレビの画面で微笑んでいた女性のことを、なぜ自分が知っているかのように夢で見たのか・・・・
訳はなんとなく分かるが、それを理解したくなくてピロリは必死に頭を振った。
「違う!!・・・違う!!私はピロリです!!ピロリなんです!!」
誰かに言い訳しているわけでもなく・・・ただ、自分がそうだと思う自分の名前だから・・・
「・・・・・・ピロリなんです・・・」
―――よ〜〜〜し!!お前は今日からピロリだ!!このミディ様が名づけたんだからな!?誇りに思いなさい!!
二年前、記憶を失って呆然としていた自分に力強く彼女はそう言った。その時やっと真っ白だった私の世界にピロリとしての道が出来たのだ。 力になりたくて必死に整備士の勉強をして、相棒にしてもらえて、彼に・・・出会わせてくれた・・・。 昔の自分なんて覚えていなかったが、それでもピロリとしての二年間・・・確かな幸せがあったのに・・・
「思い出させないで下さい!!私を消さないで!!」
夢の中で話しかけた悲しげな瞳の青年・・・ きっと彼は会ってはならない人なのだ・・・私が、ピロリとして生きる事を望むのなら・・・
「・・・・・出て・・・こないで・・・・サン・・・っ!!」
―――雪・・・・君は今どこにいるの・・・?
語りかけられている気がして涙が溢れそうになる・・・。 余計なものを全て遮断するように、ピロリは毛布で頭まですっぽりと覆った。
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「ピロリちゃん!!もう起き上がって平気なの!?」
しばらくしてから、恐らく自分が倒れた事で心配をかけただろう三人に謝るために、ピロリは自室を出た。するとすぐに洗面器を抱えたディヴィスに会い、焦った声色で呼び止められる。
「ディヴィスさん・・・!ご心配かけましてスミマセン・・・。ちょっと風邪気味だっただけみたいです。この間雨の中に傘ささないで出かけたから・・・」 「あぁ、チヒロちゃん連れてきた日ね。そういえばピロリちゃんって雨の日に傘ささないよね?風邪ひいちゃうのに・・・・何で?」
――――雪さん・・・・このままだと風邪をひいてしまう・・・傘を・・・
「っ・・・・こ、これからは気をつけるようにします!!」
顔を青くして俯くピロリに、ディヴィスは眉をひそめたが軽くため息をつくと空いている手をピロリの背に添えて、部屋に戻るように促した。
「とにかく、風邪気味なら部屋に戻ろうピロリちゃん・・・。今、ミディがジェット飛ばして医者連れてくるらしいから。」 「ごめんなさい・・・あの、チヒロちゃんは・・・」 「滋養に良いもの作るってキッチンに。役立たずな俺にこれを渡してね・・・」
ディヴィスは苦笑交じりに洗面器を掲げる仕草をした。 おどけた仕草のディヴィスがおかしく、ピロリはくすりと笑う。
「役立たずなんてそんな・・・・くすくすっ・・・。・・・でも、本当にすみません・・・チヒロちゃんの歓迎会だったのに・・・・」 「ごめんと言う前にまずは風邪を治すことだよピロリちゃん。それが皆が君に望んでいることだし・・・」 「・・・それが一番のお礼になる・・・?」 「・・・ミディの受け売りだね・・・さっ、分かったら早く部屋に戻る、戻る!眠れないなら子守唄でも唄ってあげるからさ!」 「え〜〜〜〜・・・ディヴィスさん音痴じゃないですかぁ〜〜〜〜」 「言ってくれるねぇ・・・ピロリちゃん・・・」 「くすくすっ・・・嘘ですよ!お願いしちゃいます・・・」 「お〜〜〜〜し任せとけ!!十八番の月面逃避行を聞かせてあげちゃうぞ!!」
「ありがとう・・・・ディヴィスさん・・・・」 「・・・うん・・・あんま心配かけさせないでやってくれ・・・・な?俺も心配だし!」 「・・・はい・・・!」
誰に、とはあえて聞かないけれど・・・今与えられる優しさが自分をピロリでいさせてくれる。ただ・・・今はその心地よさを味わってだけいたかった・・・
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